現場監督の定年後再雇用とセカンドキャリア — 東海の実態と50代の備え方
- 厚生労働省調べで65歳までの雇用確保措置実施企業は99.9%だが、70歳までの就業確保措置は29.7%にとどまる(2023年)。
- 東海の現場では嘱託再雇用1年目の年収が60歳時点の6〜7割程度に下がる体感が多く、資格の有無で交渉力に差が出る。
- 現場監督のセカンドキャリアは嘱託再雇用・独立応援技術者・内勤職種転換の3パターンに大別され、体力と働き方の希望で選び方が変わる。
「山根さん、うちの会社、60歳過ぎたら給料が急に半分になるって聞いたんですが、本当ですか」。先日のオンライン面談で、53歳の現場代理人の方からこう聞かれました。
結論から言うと、半分になるかどうかは会社と働き方次第というのが僕の実感です。厚生労働省の「高年齢者雇用状況等報告」(2023年6月1日時点、31人以上規模の企業が対象)では、65歳までの雇用確保措置を実施済みの企業は99.9%に達している一方、70歳までの就業確保措置を実施している企業は29.7%にとどまっています。つまり65歳までは制度としてほぼ全員が守られていますが、その先は会社ごとの差が大きいということです。東海の現場監督の方々を見てきた体感では、嘱託再雇用1年目の年収は60歳時点を100とすると60〜70程度に下がるケースが多く、これが「半分」という噂の元になっているのだと思います。今日はこのあたりを、公的統計と東海の実態ベースで整理したうえで、よくある失敗の対処法と、実際の分かれ道をケース比較で見ていきます。
1. 東海の建設現場はどれだけ高齢化しているか
総務省「労働力調査」をもとにした国土交通省の資料によると、建設業就業者に占める55歳以上の割合は2023年時点で約36%とされています。全産業平均の約31%と比べると5ポイントほど高く、建設業が相対的に高齢の産業であることが数字からも見えます。逆に29歳以下の割合は建設業で約12%、全産業平均の約16%を下回っており、若手の薄さと中高年の厚さが同時に進んでいる構造です。
東海4県(愛知・岐阜・三重・静岡)の現場を回っていても、所長クラスの平均年齢は50代前半という体感が強く、60代の現場代理人も決して珍しくありません。リニア関連工事や港湾・工場新設が重なる東海では人手不足が深刻な分、経験者は年齢を問わず現場に求められ続けているというのが実感です。さらに僕の体感では、名古屋市内のある中堅ゼネコンの支店では、所長クラス9人のうち6人が55歳以上という状況も珍しくありません。若手の採用が追いつかない以上、50代後半・60代のベテランが現場を支える構造は、少なくとも向こう5〜10年は続くだろうというのが僕の見立てです。だからこそ「辞める」より「どう働き続けるか」を考える価値のある地域だと思っています。
2. 定年後再雇用の制度はどうなっているか
高年齢者雇用安定法は2013年の改正で、65歳までの雇用確保措置(定年引上げ・継続雇用制度・定年廃止のいずれか)を企業の義務としました。これにより前述の99.9%という実施率が実現しています。さらに2021年4月の改正では70歳までの就業確保措置が努力義務として追加されましたが、こちらは義務ではなく努力義務にとどまるため、実施率は29.7%という数字に落ち着いています。
建設業の中堅ゼネコン・サブコンで多いのは「継続雇用制度」、いわゆる嘱託再雇用です。定年延長や定年廃止を選ぶ会社は体感として少数派で、60歳で一度区切りをつけ、1年更新の嘱託契約で65歳まで、そこから先は個別契約で70歳近くまで、という段階型の会社が東海では多い印象です。ここで重要なのは、嘱託契約の中身(給与テーブル・職務内容・更新基準・賞与の有無)を定年の間際ではなく50代前半のうちに確認しておくことだと考えています。人事担当者に聞いても「60歳になってから相談してください」と言われがちですが、実際には55歳前後で雛形だけでも見せてもらえる会社が東海には一定数あります。
3. 現場監督のセカンドキャリア、3つの分かれ道
東海の現場監督の方々を見てきた中で、定年後の働き方はおおむね次の3パターンに分かれます。
- 嘱託再雇用で現場に残る:これまでの会社で、所長補佐や監理技術者として現場に残る道。
- 独立・応援技術者になる:個人事業主や小規模な技術者派遣会社に登録し、複数の現場を単発・短期で支援する道。
- 内勤・後進育成へ職種転換する:安全パトロール、品質管理顧問、若手の教育担当など、現場の最前線から一歩引いた役割へ移る道。
それぞれ向く人のタイプが違うので、簡単な比較表にまとめます。
| パターン | 年収の体感 | 働き方 | 向く人 |
|---|---|---|---|
| 嘱託再雇用 | 60歳時点比 60〜70%程度 | 勤務日数・時間は現役時とほぼ同じ場合が多い | 収入の安定を優先したい人 |
| 独立・応援技術者 | 日当2.5万〜3.5万円目安、稼働日数次第 | 自分で稼働日を調整できる | 体力に自信があり人脈がある人 |
| 内勤・職種転換 | 嘱託再雇用よりやや低めの体感 | 現場常駐から離れ負荷が軽い | 体力面に不安が出てきた人 |
どれが正解というわけではなく、体力・家族の事情・収入への要求水準で選ぶべきものだと考えています。付け加えると、どの道を選ぶにしても直近2年分の健康診断結果と資格証の有効期限は、50代のうちに自分で一覧化しておくことをお勧めします。これがあるとないとでは、いざ契約の話になったときの説得力が変わってきます。
4. 再雇用で年収・待遇はどう変わるか(東海の体感値)
僕が東海で支援したある現場所長の方(当時62歳)の例では、59歳までの年収を100とした場合、60歳での嘱託再雇用後は65程度まで下がり、職務内容は定年前とほぼ変わらない監理技術者としての配置でした。この方は1級施工管理技士の資格を持っていたため、無資格の同僚より下がり幅が小さく、会社側も「資格者を外に出すリスク」を考慮した結果だったようです。資格の有無が待遇交渉の材料になる、という点は東海の人手不足の裏返しとも言えます。実際にこの方は、58歳の時点で人事に「再雇用時の職務内容は定年前と同じか」を確認しており、そのやりとりがあったからこそ、60歳時点で想定外の下げ幅にならずに済んだと振り返っていました。
一方で独立・応援技術者の道を選んだ方は、日当2.5万〜3.5万円程度を目安に、月の稼働日数を15〜20日程度に抑えて働くケースが多く見られます。収入は嘱託再雇用より変動しますが、休みの融通が利きやすいという声をよく聞きます。どちらが良いかは「安定」か「自由度」かという優先順位の違いです。
5. 60代で現場に立ち続けるために、50代のうちにやるべきこと
現場に立ち続けたいなら、50代のうちに準備しておきたいことが3つあります。時期の目安も合わせて整理します。
- 55歳前後:自社の継続雇用制度の中身(契約更新の基準、職務内容の変化、賞与の有無)を人事に確認する。
- 57歳前後:監理技術者資格を持つ場合は5年ごとの監理技術者講習の受講期限を確認し、切れる前に申し込む。
- 59歳:退職金の見込額と再雇用契約書の雛形を確認し、嘱託契約後の手取りを試算しておく。
東海ではリニア・港湾・工場新設の工事が重なり、経験者の人手不足が続いています。再雇用条件に納得できない場合でも、50代後半からの転職という選択肢が現実的に存在する地域だというのが僕の見立てです。定年を待つだけでなく、選択肢を複数持っておくことが、終盤のキャリアを自分のペースで決める力になると考えています。
6. よくある失敗と対処
50代の方からの相談を受けていると、同じようなつまずき方をするケースが繰り返し出てきます。ここでは僕が実際によく聞く3つの失敗と、その対処法を整理しておきます。
失敗1:定年間際まで制度を確認せず、給与の下げ幅に驚く
59歳の年末になって初めて「再雇用後の給与テーブル」を見せられ、想定していたより2割以上低い数字に驚く、という相談は東海でも少なくありません。原因の多くは、本人が「聞きづらい」と遠慮して確認を先延ばしにしていたことにあります。対処法としては、55歳前後の人事評価面談のタイミングで「継続雇用制度の資料を見せてほしい」と率直に伝えることです。多くの会社は制度自体は整備済みなので、聞かれれば開示できる状態にあります。
失敗2:監理技術者講習の更新を失念し、配置から外れる
監理技術者資格は5年ごとに講習を受けないと効力を失います。60歳前後は現場の引き継ぎや後進育成で忙しく、講習の案内を見落としてしまうケースが東海でも実際にありました。更新が切れると、せっかくの資格者としての交渉力も失われてしまいます。対処法はシンプルで、講習の有効期限をスマートフォンのカレンダーに前倒しで(期限の半年前など)登録しておくことです。
失敗3:独立したものの、案件が途切れて収入が不安定になる
応援技術者として独立した方の中には、最初の数ヶ月は順調でも、次の案件の声がかからず数ヶ月間稼働ゼロになってしまうケースがあります。原因の多くは、在職中に人脈を広げる動きをしていなかったことです。対処法としては、退職の1〜2年前から、協力会社の担当者や元請の所長クラスと個人的なつながりを維持しておき、「独立したら声をかけてほしい」と伝えておくことです。東海は現場数が多い分、こうした事前の一言があるかないかで、独立後の稼働の安定度がかなり変わってきます。
7. セカンドキャリアのケース比較
ここまでの内容を踏まえて、実際に東海で見てきた3人の方のケースを比較してみます。名前や会社は特定できないよう加工していますが、いずれも実在のやり取りをもとにしています。
ケースA(62歳・1級施工管理技士)は、嘱託再雇用を選び、定年前とほぼ同じ監理技術者の立場で現場に残りました。年収は59歳時点を100とすると65程度まで下がりましたが、通勤時間や人間関係が変わらないことを本人は大きなメリットと感じているようでした。
ケースB(58歳・2級施工管理技士)は、退職金を受け取ったタイミングで独立し、応援技術者として複数の現場を掛け持ちしています。日当は3万円前後、月の稼働は18日程度で、収入は嘱託再雇用より高い月もあれば低い月もあるとのことでした。本人いわく「稼働を自分で決められるのが一番の魅力」とのことです。
ケースC(63歳・資格なし)は、体力面の不安から現場の最前線を離れ、品質管理の顧問という内勤職に転換しました。年収は嘱託再雇用よりもやや低い体感でしたが、残業がほぼなくなり、週末の予定を立てやすくなったことに満足しているとのことでした。
3人に共通していたのは、いずれも50代のうちに「このままこの会社に残るか、別の道を探すか」を一度自分なりに整理していたという点です。選んだ道は違っても、準備を始めた時期が早かったことが、納得感のある選択につながっていたように思います。
0.(結論)
東海の建設業は高齢化が進む一方で、65歳までの雇用確保はほぼ制度化され、70歳までの就業確保も少しずつ広がりつつあります。嘱託再雇用・独立応援技術者・職種転換、どの道を選ぶにせよ、50代のうちに制度の中身と自分の体力・資格を棚卸ししておくことが、納得のいくセカンドキャリアにつながると僕は考えています。よくある失敗の多くは「確認の先延ばし」から生まれるものなので、今日お伝えした時期の目安を参考に、まずは一つだけでも確認の行動を起こしてみてください。皆さんいかがでしたでしょうか。では今日もがんばりましょう。
よくある質問
Q. 現場監督は何歳まで現場に立てますか
法律上の上限はなく、東海の現場では65歳前後まで嘱託再雇用で現場に立つ方が多数派です。資格を持ち体力面の自己管理ができていれば70歳前後まで応援技術者として稼働する方もいますが、厚生労働省調べでは70歳までの就業確保措置を実施している企業は2023年時点で29.7%にとどまり、会社の制度次第という面が大きいです。
Q. 再雇用になると給料はどのくらい下がりますか
東海の現場監督の体感値では、60歳到達時点の年収を100とすると嘱託再雇用1年目は60〜70程度になるケースが多いです。ただし監理技術者として配置される資格保持者は下がり幅が小さい傾向があり、職務内容が定年前とほぼ同じかどうかで交渉の余地が変わります。
Q. 独立して応援技術者になるのは現実的ですか
資格と現場経験があれば現実的な選択肢です。東海では日当2.5万〜3.5万円程度が目安とされ、稼働日数を自分で調整できる一方、案件を切らさないための人脈づくりが50代のうちの準備として重要になります。
IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。