給与・待遇2026-08-04監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

施工管理の固定残業代とは何か — 東海の実態と数字の見極め方

この記事の要点

「固定残業40時間って書いてあるけど、45時間目からは追加でもらえるんですか?」と、転職相談の面談で聞かれることがあります。

結論から言うと、固定残業代(みなし残業代)がついた求人票は、基本給の額面だけで比較すると実態を見誤りやすいと僕は考えています。同じ「月給28万円」でも、固定残業に含まれる時間数が違えば、時間単価にすると1時間あたり数十円から百円以上の差が出ることがあるからです。

この記事では、固定残業代の仕組みを法律の要件から整理し、求人票の数字を時間単価に変換する具体的な計算式、そして「現場代理人だから残業代はつかない」という説明がどこまで正しいのかを、東海の相談現場で見てきた傾向を交えてお伝えします。最後には、求人票を受け取った当日にできる確認手順もまとめました。

0. 結論:固定残業代は「時間単価」に変換して初めて比較できる

固定残業代とは、あらかじめ「◯時間分の残業代」として基本給や諸手当に組み込んで支払う仕組みです。求人票に「固定残業40時間分(〇万円)を含む」と書かれていたら、それは基本給の一部が最初から残業代として計算されているという意味になります。

問題は、固定残業の時間数が求人ごとに違うことです。同じ「月給28万円」でも、固定残業が30時間分の会社と60時間分の会社では、1時間あたりの実質単価がまったく変わってきます。僕の体感値で言うと、東海の施工管理職の求人を見比べる相談では、この時間単価の差に気づかずに「額面が高い方」を選んでしまい、入社後に「思ったより時給が低かった」と感じる方が一定数いらっしゃる印象です。

1. 固定残業代(みなし残業)とは何か — 法律上の3条件

固定残業代は労働基準法37条が定める残業代(時間外労働の対価)を、一定時間分あらかじめ固定額で支払う運用です。ここでポイントになるのが、固定残業代が有効に成立するには次の条件を満たす必要があるということです。

この3条件のいずれかが欠けている固定残業代は、法的には無効と判断される可能性があります。実務上よく見るのは、「固定残業45時間分」と書かれているのに、46時間目以降の残業代が実際には支払われていないケースです。これは求人票の記載だけでは分からず、入社後の給与明細や労働条件通知書で確認する必要があります。

2. 求人票の「固定残業◯時間分」を数式で読み解く

固定残業代を時間単価に変換するには、まず月平均所定労働時間を仮定します。年間休日105日程度のモデルケースでは、月平均所定労働時間はおおむね173.8時間が目安としてよく使われます(休日の取り方は会社ごとに異なるため、あくまで目安値です)。

この目安値を使うと、時間単価は次の式でおおよそ算出できます。

時間単価 ≒ 基本給 ÷(月平均所定労働時間 + 固定残業時間 × 1.25)

実際に4つの求人票を比較してみます。

項目ケースAケースBケースCケースD
基本給(固定残業込み)25万円28万円26万円30万円
固定残業時間45時間分60時間分60時間分30時間分
時間単価(目安)約1,090円約1,125円約1,045円約1,420円

ケースAとケースBは額面で3万円の差がありますが、時間単価にすると1時間あたり35円ほどの差にとどまります。一方でケースBはケースAより固定残業時間が15時間多く、体力的な負担は単純な額面差以上に大きくなる可能性があります。

ケースCは、三重県内の設備工事会社への転職相談で実際に見た求人票に近い数字です。ケースBと固定残業時間は同じ60時間分なのに、基本給が2万円低いため、時間単価はケースBより80円低くなります。額面の月2万円差だけを見ると小さく感じますが、固定残業60時間分という同じ働き方を前提にした場合、時間単価の差はそのまま生涯賃金の差につながっていく計算になると僕は考えています。

表にはもう一つ、愛知県内の準大手ゼネコンで実際に提示されていた条件に近いケースDも加えました。基本給30万円・固定残業30時間分という組み合わせで、時間単価は約1,420円になります。額面はケースBより2万円高いだけですが、固定残業時間はケースBより30時間少ないため、時間単価の差は300円近くにまで広がります。同じ「月給表記」でも、固定残業時間が短い会社ほど時間単価は高く出やすいという傾向があると、僕は相談の中で感じています。求人票を比べる際は、額面の高低だけでなく、この時間単価と固定残業時間の両方をセットで見ることをお勧めしています。

なお、2024年4月からは建設業にも時間外労働の上限規制(原則月45時間・年360時間、特別条項でも単月100時間未満・複数月平均80時間以内・年720時間以内)が本格適用されています(厚生労働省「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」)。固定残業時間が上限規制に近い、あるいは超えるような設定になっている求人は、そもそもの働き方の設計を確認した方がよいと考えています。

2-1. 年収表示との比較でも同じ注意が必要

求人票が「想定年収400万円〜500万円」のような幅で書かれている場合も、同じ注意が必要です。年収の幅は基本給に固定残業代と想定される業績給・現場手当を加算した数字であることが多く、内訳を明示していない求人も少なくありません。僕が受ける相談では、想定年収の上限側の数字だけを見て入社を決め、実際の初年度は下限に近い金額だった、という声を聞くことがあります。年収表示を見るときも、固定残業代と同様に「その数字にどの手当が含まれているか」「何を基準にした金額か」を確認する習慣を持つとよいと考えています。

3. 名ばかり管理職問題 — 現場代理人は管理監督者になるのか

「現場代理人・所長は管理職だから残業代は出ない」という説明を受けたことがある方も多いと思います。しかし、労働基準法41条2号が定める「管理監督者」に該当するかどうかは、役職名ではなく実質で判断されます。厚生労働省の解釈で挙げられる代表的な基準は次の3つです。

僕が相談を受けた方の中には、現場代理人という肩書きで残業代が一律カットされていたものの、実際には工事着手から竣工まで決められた時間に現場へ入る義務があり、部下の人事権も持たない、というケースがありました。この場合、管理監督者の実質を満たしていない可能性が高く、本来は残業代の支払い対象になり得ます。この方には、まずご自身の実際の勤務実態(出退勤時刻・現場常駐の指示履歴)を記録として残すこと、次に会社の労務担当に固定残業代の区分と管理監督者の位置付けを確認することをお勧めしました。名ばかり管理職の問題は、会社側が意図的に見なしているケースだけでなく、労務管理の体制が追いついていないまま役職者に残業代を払わない運用が続いているケースも少なくないと、僕は感じています。

4. 東海のゼネコン・サブコン・地場工務店で見た傾向差

固定残業時間の設定は会社の規模や業態によって傾向差があると、僕は相談現場で感じています。あくまで体感値としてですが、大手・準大手ゼネコンでは固定残業を30〜45時間分に設定し、超過分は別途申請・支給する運用を整えている会社が増えてきた印象です。一方、地場の工務店や下請けに近いサブコンでは、固定残業を60時間前後に広く設定し、「固定の中に収める」運用が残っているところも見られます。

先ほどのケースDのように、固定残業を30時間程度に抑えて基本給を高めに設定する会社が、東海の大手・準大手ゼネコンで増えている印象です。これは2024年の上限規制を見据えて、固定残業時間そのものを短く設計し直す動きの一つだと僕は捉えています。これは良し悪しというより、会社が労務管理にどれだけ体制とコストをかけているかの表れだと捉えています。転職先を検討する際は、固定残業時間の長さそのものよりも、「45時間を超えたら別途申請する運用が明文化されているか」を確認する方が、実際の働き方を見極めるうえで有効だと僕は考えています。

5. 求人票を確認する実務手順 — 今日30分でできること

ここまでの内容を、実際に手を動かして確認する手順に落とし込みます。求人票が手元にあれば、次の3ステップはまとめて30分ほどで終わります。

  1. (約5分)求人票の基本給・固定残業時間・想定年間休日をメモに書き出す。年間休日が105日前後でなければ、月平均所定労働時間の目安(173.8時間)は使わず、求人票記載の所定労働時間を優先する。
  2. (約10分)本記事の計算式で時間単価を算出し、比較したい他の求人票と並べる。額面の差だけでなく、固定残業時間が同じかどうかも一緒に見る。
  3. (約15分)面接や条件面談で「固定残業◯時間を超えた場合の追加残業代の申請方法」「現場代理人の出退勤にどの程度裁量があるか」の2点を質問し、回答を記録しておく。

よくある失敗と対処

相談を受ける中でよく見る失敗は、時間単価を計算せずに額面だけで内定を決めてしまうことと、面接で条件面のことを聞くと評価が下がるのではと遠慮してしまうことの2つです。前者は本記事の式を使えば防げます。後者については、固定残業の運用や管理監督者の実質を尋ねる質問は、働き方を具体的に確認しようとする姿勢として受け取られることが多く、むしろきちんと答えてくれるかどうかで会社の労務管理の体制を見極める材料になると僕は考えています。

もう一つ見かける失敗は、固定残業が0時間、いわゆる完全実費支給の求人票を見て「残業自体が発生しない会社」だと誤解してしまうケースです。固定残業0時間というのは、残業した分だけ実際の時間で計算して支払う運用を意味しているだけで、残業がゼロという保証ではありません。むしろ実際の残業時間がそのまま反映されるため、時間単価で見れば固定残業を組み込んだ求人より高くなることが多いというのが僕の体感値です。答えを濁す、あるいは「そんな細かいことは気にしなくていい」という反応が返ってきた場合は、入社後の運用にも同様の不透明さが残っている可能性があると捉えた方がよいと思います。

(結論)

ここまでの内容を、転職前に確認すべき3つの質問としてまとめます。

  1. 固定残業代は何時間分で、時間単価に換算するとどのくらいになるか
  2. 固定残業時間を超えた場合、追加の残業代はどう申請・支給されるか
  3. 現場代理人・所長という役職に、出退勤の裁量や待遇面の実質が伴っているか

これらは求人票だけでは分からないことが多く、面接や条件面談の場で聞いても、ネガティブに受け取られる質問ではありません。むしろ、働き方を具体的に確認しようとする姿勢として、きちんと答えてくれる会社かどうかを見極める材料にもなります。

皆さんいかがでしたでしょうか。固定残業代の仕組みを理解して、額面だけでなく時間単価と運用の実態まで確認する視点を持てば、転職後の「思っていたのと違った」を減らせると僕は考えています。では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. 固定残業代とはどういう仕組みですか?

固定残業代(みなし残業代)とは、あらかじめ一定時間分の残業代を基本給や諸手当に組み込んで支払う仕組みです。労働基準法上有効に成立するには、基本給と固定残業代の区分が明示されていること、固定時間を超えた残業には別途追加で支払われること、実際の残業が固定時間より少なくても減額しないことの3条件を満たす必要があります。

Q. 求人票の固定残業45時間ぶんは何時間まで無料ですか?

固定残業45時間分という表記は、45時間までの残業代がすでに基本給等に含まれているという意味です。46時間目以降の残業については、法律上は別途追加の残業代を支払う必要があります。求人票だけでは超過分の運用まで分からないため、労働条件通知書や面接で確認することをお勧めします。

Q. 現場代理人は残業代がつかないと聞きましたが本当ですか?

役職名だけで残業代がつかないと判断するのは正確ではありません。労働基準法上の管理監督者に該当するかは、経営判断への実質的な関与、出退勤の裁量、役職に見合った待遇の3点で判断されます。これらの実質を満たしていない場合、現場代理人という肩書きでも残業代の支払い対象になり得ると考えられます。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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